「絵画は値上がりするから儲かる」「将来有名になる画家だから、今のうちに買っておいたほうがいい」
このような上手い話を聞いて、絵画の購入を検討されている方も、世の中にはたくさんおられるのではないでしょうか。
しかし、絵画の投資は株式や投資信託とはまったく性質が異なることを承知しておいてください。
絵画の場合、購入価格と実際に売却できる価格の間には、大きな差があります。
たとえば、画廊や画商から100万円で購入した作品を数年後に売ろうとしたら、買取査定が10万円程度だった、というケースもよくあることです。
ここで重要なことは、「画商から買ったから失敗する」という単純な話ではありません。
問題は、販売価格と市場価格の違いを知らないまま、絵画を金融商品のような感覚で購入してしまうことです。
この記事では、絵画投資で失敗してしまう理由から、100万円の絵が10万円の査定になる仕組み、購入前に確認すべきポイントまで初心者の方にもにもわかりやすく解説しています。
絵画投資はなぜ難しいのか
絵画投資が難しい最大の理由は、「この絵はいくら」という絶対的な価格が存在しないことにあります。
株式であれば、上場している企業の株価を証券会社や証券取引所で確認できます。
たとえば1株1,000円で取引されている株なら、その時点で市場参加者が売買している価格を確認できます。
ところが絵画の場合は違います。
同じ作家の作品でも、作品の大きさや絵柄、モチーフ、制作された年代、油彩なのか版画なのか、保存状態、マーケットでの人気などによって価格は大きく変わります。
つまり絵画は、株式のように「今日の市場価格」が簡単に確認できるものではないのです。
そのため、初心者が「値上がりしそう」という理由だけで購入すると、失敗するリスクが非常に高いです。
百万円で買った絵が十万円になる理由
ある作品を画廊で100万円で購入したとしましょう。
購入者は「100万円で買ったのだから、売るときには少なくとも半値くらいでは売れるだろう」と考えるかもしれません。
しかし、実際にはそうならないことがほとんどです。
数年後に買取業者や別の画商へ持っていったところ、「買取価格は10万円です」と言われる事例も珍しくありません。
なぜこれほど価格差が出るのでしょう。
大きな理由のひとつが、小売価格と再販市場の買い取り価格は別物だからです。
100万円という販売価格には、作品そのものの価格だけではなく、画廊の運営費、人件費、広告宣伝費、作家のプロモーション費用、在庫を抱えるリスク、額装代金、販売店側の利益などが含まれています。
一方、買取業者や画商が作品を買う場合には、その作品をさらに別のお客様へ売らなければなりません。
50万円で売れる可能性がある作品ならば、50万円以下で、できるだけ安く買い取らなければ利益がでません。
また絵画には、いつ売れるか判らず長期の在庫になってしまうリスクもあります。
その結果、再販売価格よりできる限り安い金額でしか買い取れません
つまり、「100万円で販売されている」ことと「100万円の換金価値がある」ことは全く違うことなのです。
これが絵画投資で最も注意しなくてはならないポイントです。

画商の販売価格=市場価値ではない
画商やギャラリーそのものが悪いわけではありません。
画廊には作家を発掘したり、展覧会を開催したり、作品を世の中へ紹介したりする重要な役割があります。
問題なのは購入者が、「販売価格=その作品を売却できる価格」
だと思い込んでしまうことです。
たとえば、100万円で販売されている作品があるとします。
その作品について、同じ作家の同程度の作品が、実際にどのくらいで売買されているのかを調べることが、とても重要なことです。
その判断材料のひとつがオークションでの落札実績です。
世界的なオークション会社である「Artnet」には、1985年以降の多数のオークション記録が収録されており、同じ作家・技法・サイズなどの類似作品を調査できます。
たとえば100万円で購入を検討している作品と似たような作品が、過去のオークションでは10万円〜20万円程度でしか取引されていなかったとします。
その場合、どうしてこの作品は100万円なのか?と一度立ち止まってよく考える必要があります。
もちろん、オークション価格だけが作品価値を決めるわけではありません。
しかし、投資目的なら決して無視できない数字です。
過去のオークション価格を必ず確認するようにしましょう。
絵画投資で失敗する人に多い7つの原因
絵画投資の失敗には、いくつか共通したパターンがあります。
相場の価格を調べずに購入する
もっとも危険なのが、販売者から提示された価格を鵜吞みにして購入することです。
100万円と言われれば、それだけ価値のある絵なのだろうと、勘違いしてしまうことです。
しかし販売価格は市場価格そのものではありません。
購入前には必ず、同じ作家の過去の取引価格を調べましょう。
将来値上がりするという勝手な期待だけで購入する
若手作家や新進作家の場合、『これから有名になります』、『海外進出を予定しています』、『今後価格が上がる可能性があります』などといった説明を受けることが多々あります。
もちろん、実際に評価を高める作家も中にはいます。
しかし、すべての作家が値上がりする事など絶対にありません。
将来の価格など誰にも保証できないのです。
買取価格を確認していない
購入するときには販売価格はもちろん見ますが、売るときの価格まで確認する人はあまりいません。
購入する前に『この絵を売却するとしたら、どの程度で買い取れますか?』と複数の業者に確認してみる方法もあります。
ここで購入価格との差が非常に大きければ、少なくとも短期的な投資対象としては向いてないと判断したほうが無難でしょう。
将来値上がりするという勝手な期待だけで購入する
有名な作家だからといって、すべての作品が同じ価格で取引されるわけではありません。
もともと油絵と版画では価格帯が違いますし、人気のモチーフとそれ以外でも価格差が大きく生じます。
同じ作家だからという理由だけで単純に比較するのは危険です。
「出口を考えずに買う」
何の投資でも実は『買うこと』以上に『売ること』が大変難しいです。
絵画の場合、『誰がこの絵を買ってくれるのか』、『どのオークションなら出品できるのか』、『マーケットに買い手がはたしているのか』という売れるかどうかを確認しなければなりません。
買う人がいなければ、理論上の評価額が高くても現金にはできません。
短期間で利益を出そうとする
絵画を売買するためには、さまざまなコストが発生します。
そのため、購入直後に同じ価格で売却することは、ほぼ無理です。
短期売買で利益を狙う商品として考えるのは止めたほうが無難です。
好きな絵が投資対象になるとは限らない
「この絵が好きだから100万円で購入する」という判断と「100万円で買ったら将来100万円以上で売れるだろう」という判断は別です。
前者なら、本人が100万円分の満足を得られれば納得できます。
しかし後者なら必ず、市場価格や流動性について客観的な知識や根拠が必要です。

「将来値上がりする」という言葉をどう考えるか
絵画を購入する際、「この作家は将来有望です」と言われることが度々あります。
もちろん本当に将来を高く評価されている作家も中にはいるかもしれませんし、ただの売り文句かもしれません。
真剣に投資として考えるのであれば、言葉だけでなく事実を確認することが大切です。
たとえば、
「過去にどのようなオークションで売買されているか」
「落札価格は上昇しているのか」
「出品数に対してどの程度売れているのか」
「美術館での収蔵実績はあるか」
「どのようなギャラリーが取り扱っているか」
「国内だけでなく海外市場が存在するか」
などを丁寧に確認してください。
特に重要なのが「実際にオークションなどで売買された実績があるか」という事です。
販売店が付けている値札と、マーケットでの取引金額は全くの別物です。
絵を買う前に調べるべき相場
絵画投資の初心者でも、最低限の調査は自分でできます。
まずは「作家名」で検索します。
次に「作家名 オークション」「作家名 落札価格」などで調べてみましょう。
さらに本格的に調査する場合は「Artnet」などの価格データベースを利用する方法もあります。
「Artnet」では多数のオークション結果を検索することができます。。
ただし注意したいのは、同じ作家だから比較できるとは限らない
という点です。
100号の代表的な油彩の作品と、小型の版画作品を単純に比較することはできません。
できるだけ、制作年代や技法、サイズ、モチーフ、エディション(版画の場合の限定番号のこと)、保存状態が近い作品を比較してください。

絵画を売却するときに初めてわかる問題
絵画投資で怖いのは、購入している間は問題に気付きにくいことです。
自宅に100万円で購入した絵画が飾られていれば、
「100万円の価値のある資産を持っている」
という感覚になるかもしれません。
しかし本当の換金価値がわかるのは、売却する時です。
そこで初めて、
「買い手がいない」
「オークションへ出せない」
「買取価格が購入価格の10分の1だった」
などといった様々な現実を知ることになります。
これは絵画の世界、特有の流動性の問題です。
世界の美術市場自体は現在でも非常に巨大です。
2025年の世界美術市場の売上高は前年比4%増の推計596億ドルでした。
しかし、2022年のピークの時期からすると、かなり下回っています。
また、50,000ドル未満のオークション市場では、2025年に金額、取引量とも2%減少しており「美術市場全体が上昇している=自分の所有作品も値上がりする」とは言えません。
つまり、美術市場が成長しているニュースを見ても、個別作品の価格上昇を保証するものではないのです。
それでも絵画を買うならどう考えるべきか
ここまで読むと、
「絵なんて買わないほうがいいのでは?」
と思うかもしれません。
しかし、絵画にはお金では測れない価値があります。
『毎日眺めることができて、心が癒される』
『絵画を飾ることで部屋の雰囲気を変えてくれる』
『好きな作家の作品を所有できる楽しさがある』
こうした価値は、お金だけでは測れません。
だからこそ初心者の場合、
「値上がりしなくても、この作品を所有したい」
と思えるかどうかをひとつの基準にするといいと思います。