絵画専門店 Art Gallery MOTOKAWA

草間彌生の絵画の価格はなぜこれほどまでに高くなってしまったのか?

ギャラリスト:本川 義則

草間彌生さんは、日本を代表する現代アートの画家です。
1929年に長野県の松本市に生まれ、絵画だけではなく、彫刻や立体作品、インスタレーションなど幅広い作品を制作してこられました。
特に有名なのが、水玉模様(ドット)を繰り返し描く表現です。
キャンバスの画面いっぱいに水玉や網目の模様を反復させ、「無限に続いていくような感覚」を表現する作品が特徴的です。
また、カボチャも草間作品を象徴するモチーフとして非常によく知られています。
惜しまれつつも2026年8月に97才で逝去されましたが、最後まで芸術家として生き抜く姿には感動を覚えました。
この記事では、そんな草間彌生さんの絵画の価格が生前でありながら何故あれほど急激に高くなってしまったのか、その理由を探ってみたいと思います。

2000年以前の草間彌生の絵画の価格

2000年以前の草間彌生さんは、現代アーティストとして無名だったわけではありません。
すでに国際的な活動歴の長い作家でした。
しかし、草間彌生さんの絵画の価格は、まだその頃は非常に安く、アートギャラリーモトカワでもSMサイズ(22,7cm×15,8cm)の油絵を20万円ほどで販売していました。
安くても、販売するのは非常に大変で、一部の前衛アート(この頃は現代アートという呼び名も一般的には使われていなかった)好きのコレクター以外は、振り向きもしてくれないような、まだそんな時代でした。
ですから、草間彌生さんの作品の価格の上昇は、2000年代以降に起きたと考えられます。

2000年以降の草間彌生の絵画の価格の変動

2000年に30万円前後で流通していたSMサイズ(15.8cm×22.7cm)の一点物のかぼちゃの絵画は、オークション記録を調べてみると価格の変動が、だいたい次のようになります。

年    想定市場価格
2000年  30万円
2005年  150〜250万円程度
2010年  300〜500万円程度
2015年  600〜900万円程度
2020年  2,000〜3,000万円
2025年  5,000〜6,000万円程度

特に注目したいのは2015年以降です。
2015年にサザビーズのニューヨークオークションへ出品された1991年作の「Pumpkin」はSMサイズで、落札価格が7万ドルぐらいでした。
当時の為替なら日本円で850万円前後です。
そして2020年になると、同じくらいのサイズの1990年作の「Pumpkin」が韓国のオークションで24万2,100ドル(2570万円)で落札されています。
さらに重要なのは、この同じ作品が2025年5月に再びオークションに掛けられ、38万1,000ドル(4030万円)で落札されました。
つまり同一作品で、2020年から2025年のわずか5年間でも50%以上の上昇がみられます。
現在の日本のマーケットを見ると、この価格がそれほど極端ではないことも分かります。
たとえば1995年作のSMサイズの「Pumpkin」は6,325万円、同じ1995年作のSMサイズの作品は4,830万円で落札されています。
1992年作の同サイズの作品では6,555万円という実例もあります。

世界中の美術館での草間彌生の再評価

草間彌生さんは1960年代からニューヨークの前衛美術の世界で活動していましたが、その後いったん国際美術界での注目が弱まった時期があります。
しかし、1998年〜1999年にかけて開催された大規模な巡回展などを通じて世界中で再評価され、2000年代には「日本の人気作家」というより、戦後の世界美術史の重要人物として位置づけられるようになりました。
2011年〜2012年頃にはスペインのマドリードやパリのポンピドゥー・センター、ロンドンのテート・モダン、ニューヨークのホイットニー美術館へと大規模回顧展が巡回しました。
この事は、草間彌生さんの絵画の価格上昇を考えるうえで非常に重要です。
世界中の美術館で再評価されることで、富裕層のコレクターにとって「有名な日本人作家」から世界の美術史に残る作家へと認識が変化したと考えられます。

中国・香港を中心としたアジアマネーが大量に絵画の世界に流入

2000年〜2001年には草間彌生さんの絵画の年間のオークション売上の78%が米英市場だったのに対し、2021年には年間売上の74%がアジアになりました。
香港だけで年間約5,400万ドル(83億7000万円)、世界の約35%を占めています。
つまり草間彌生さんの絵画のマーケットの中心が、20年間で欧米からアジアへ大きく移ったわけです。
香港が現代アートの絵画の世界的なマーケットになった2010年頃になると、香港のオークションやアートフェアに中国本土、香港、台湾、韓国、東南アジアなどの富裕層が集まるようになりました。
2015年に香港で開催された現代アートの見本市「Art Basel Hong Kong」では、草間彌生さんの現代アートの絵画「Infinity Net」が1点30万ドル(4720万円)で販売されたことも報告されています。
2019年には草間彌生さんの現代アートの絵画「Interminable Net #4」が香港のサザビーズのオークションで、800万ドル(12億4000万円)となり、当時の草間彌生さんの現代アートの絵画のオークション記録を更新しました。

草間彌生ブランドの確立

草間彌生さんの現代アートの絵画が急激な勢いで高くなった一番大きな原因は、何と言っても草間彌生さんの現代アートの絵画が一般の人にも非常に分かりやすかったということです。
「水玉模様」、「カボチャ」、「Infinity Nets」、「Infinity Mirror Rooms」などは、草間彌生さんの現代アートの絵画だと一目で分かります。
絵画の専門知識がなくても認識でき、写真映えし、SNSとも非常に相性が良いといえます。
2017年〜2019年には「Infinity Mirrors展」が北米各地を巡回し、草間彌生さんの現代アートの絵画の知名度をさらに広げました。
その結果、美術史上の再評価から世界的な大型展覧会が開催され一般の人気が爆発して、アジアの富裕層が参入してオークションで落札記録が更新され、さらに「価値のある作家」と認識されるという循環ができたと見ると分かりやすいと思います。
実際、2021年には草間彌生さんの年間オークション売上が1億7,800万ドル(約280億円)に達し、世界の年間オークション売上トップ10に入った最初の女性作家となりました。

草間彌生の現代アートの絵画のこれから・・・

これからの草間彌生さんは、「人気のある現代アーティスト」から「20世紀後半〜21世紀の美術史を代表する作家」へ、評価が変わっていくと思われます。
そのため今後は、「存命の世界的人気作家」としてではなく、生涯の作品全体を美術史の中で検証していく段階にあります。
草間彌生さんは、1957年にアメリカへ渡り、ニューヨークの前衛美術の中心で活動されてこられました。
ニューヨーク近代美術館は、草間彌生さんが抽象表現主義、ミニマリズム、ポップアート、フェミニスト・アートなどと関係する独自の表現を展開した重要な存在と位置づけています。
さらに1998年にニューヨーク近代美術館で開催された草間彌生回顧展で、1958年~1960年代の作品について、当時形成されつつあったポップアートやミニマリズムの要素と関わりながら、国際化する美術シーンに重要な貢献をしたと評価しています。
このことは、将来の草間彌生さんの画家としての評価を考えるうえで非常に重要な事だと思われます。
「有名だから価値がある」のではなく、「後の現代美術につながることを早い時期にやっていた作家だった」と評価されるかどうかが、美術史に残るためには重要なことです。
また、草間彌生さんの絵画のオークション記録も1959年の「Untitled (Nets)」が、2022年に約1,050万ドル(1億6000万円)を記録しています。
2025年にも草間作品の年間オークション売上は約6,340万ドル(約98億円)、774点が売買され、女性作家として最大の年間取引額でした。
このように、草間彌生さんの世界的な評価は、さらに高まってきています。
同じ日本人として、草間彌生さんの現代アートの絵画をこれからも鑑賞し続け、楽しんでゆくことが彼女への最大の賛辞を呈することではないかと思っています。

出典元「草間彌生美術館」のホームページ https://yayoikusamamuseum.jp/

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